債権執行とは、執行力のある債務名義を持っている債権者が、債務者が第三者(第三債務者)に対して有する債権に対して強制執行を行うことで、自身の債権の回収を図る手続です。

1.債権執行の流れ

前提

債権執行を行うにあたっては、債権者が執行力のある債務名義正本を持っていることが必要です。なお、住所や氏名が債務名義取得以降変更している場合、その事実を証する戸籍謄本や住民票が必要になることがあります。

さらに、原則として「執行文」・「送達証明書」も必要です。これらは、いずれも当該事件記録のある裁判所ないし公証役場へ申請することで取得することが可能です。

①債権執行の申立・陳述催告の申立

申立書類を作成の上、必要書類と共に、相手方債務者の住所を管轄する裁判所へ申立てを行います。申立書類は下記のとおりです。

  • 申立書
  • 当事者目録
  • 請求債権目録
  • 差押債権目録

また申立ての際には、通常、陳述催告の申立書も合わせて提出します。

陳述催告の申立とは、第三債務者(債務者の債務者)から、債務者に対する債務の有無や金額、競合の有無などについて陳述書による回答を求める手続です。これにより、債権執行についてある程度の目途が付くことになります。

申立にあたり、費用としては、当事者の数や個人と法人の別にもよりますが、少なくとも収入印紙4,000円、予納郵券3,000円程度(札幌地裁の場合)がかかります。

② 差押命令の送達

裁判所が債権執行の申立に理由があると認めた場合には、差押命令がなされ、債務者および第三債務者へ差押命令が送られます。

原則として、差押命令が債務者に送達された日から1週間を経過すると債権者は第三債務者に対して取り立てを行うことができます。ただし、差押えが競合した場合等、第三債務者が供託した場合には裁判所による配当等の手続が行われるため、直接取り立てることはできません。

なお、差押命令の送達については裁判所から債権者へ通知がなされ、取立が可能となる期間を計ることができ、また、これを第三債務者へ提示することで取立が可能である旨を示すことができます。

③配当

差押が競合した場合、第三債務者は債務者に対する債務額を供託所に供託しなければなりません。

差押の競合とは、第三債務者の債務者に対する債務額を超えて、複数の債権者から差押えがなされた場合を指します。

例えば、債務者甲に対して、債権者A:50万円、債権者B:30万円の債権執行をそれぞれ同じタイミングで行った場合、第三債務者Xの債務者甲に対する債務が60万円であるとすると、XがBの取立に応じて30万円を支払ってしまった場合、Xには60万円以上支払う義務はありませんので、Aは50万円のうち30万円しか回収できないことになってしまいます。

このような場合、裁判所が間に入って各差押債権者の債権額に応じて配当を行うことで手続の公平を保つことができます。

上記例で配当が行われた場合、60万円に対しA5:B3の割合で配当がなされることになります。

※弁済金交付手続

第三債務者は差押が競合していない場合であっても、供託することが可能です。

この場合にも第三債務者から直接取立をすることはできず、裁判所による「弁済金交付手続」により弁済を受けることになります。手続の流れとしては、①裁判所より弁済金交付日通知書の送達②交付日に裁判所で支払証明書を受領③供託所で供託金の受領となります。

④その後

差押債権額全額を回収できた場合には取立完了届を、一部しか回収できなかった場合には回収分の取立届や取下書を裁判所に提出します。

具体的な債権の主な例として、「給与債権」と「預貯金債権」が挙げられます。

2.給与債権に対する債権執行

上記債権執行の流れに従い申立を行い、債務者の、その勤務先に対する差押命令が発せられると、裁判所から債務者及び第三債務者である債務者の勤務先に差押命令が送達されます。

申立と同時に陳述催告の申立を行っていると、第三債務者から債権の存否(在籍の有無)や差押債権者への弁済の意志、競合の有無等について陳述を得ることができます。

差押禁止債権の範囲

給与や退職金等の債権を差し押える場合、その全額を一度に差し押さえることはできません。

債務者が多額の給与を得ている場合を除き、原則として、給与等債権や退職金等債権は手取額の4分の3が差押禁止債権とされております。すなわち、残りの4分の1の金額しか取り立てることができず、差押えが競合して配当手続になる場合も、この4分の1から配当を受けることになります。なお、養育費などの扶養義務等に係る債権によって差押を行う場合は、この範囲が2分の1となります。

ただし、他の債権と異なり、給与債権は債務者が退職しない限りは差押金額に至るまで取り立てを継続することが可能です。

取立について

原則として、差押命令が債務者に送達された後、1週間を経過すると第三債務者から直接取り立てることが可能になりますが、給与や退職金等の場合には、この期間が4週間必要となります。 (民事執行法第155条第1項、第2項)

ただし、差押債権者が保有する債権が養育費などの扶養義務等に関する債権である場合は、原則どおり債務者への送達後1週間を経過すると第三債務者への直接取り立てが可能です。(民事執行法第155条第2項)

<給与債権に対する債権執行図>

3.預貯金債権に対する債権執行

上記債権執行の流れに従い申立を行い、債務者の金融機関に対する預貯金債権について差押命令が発せられると、裁判所から「相手方債務者」及び第三債務者である「金融機関の支店」に差押命令が送達されます。このため、預貯金債権の差押を行うにあたっては、金融機関のみならず、その支店まで特定して申立を行う必要があります。

また、申立と同時に陳述催告の申立を行っていると、第三債務者から預貯金債権の存否や弁済の意思、競合の有無等について陳述を得ることができます。

注意点

預貯金債権の差押にあたっての注意点としては、

一つの口座に対して行うと、それが債務者が主に利用している口座ではなかった場合や口座自体が存在せず空振りに終わってしまった場合であっても、「債務者」差押命令が送達されるため差押手続を行っていることが知られてしまう点です。

差押が察知されてしまうと、せっかく債務者の他の口座にお金が入っていたとしても、次の差押の前にお金を引き出されてしまい、結果として、回収を図ることができなくなってしまいかねません。

また、この点、複数の口座を同時に差し押さえることも可能ではありますが、

例えば、差押債権90万円、預貯金について3つの口座が判明している場合、一般的には、A口座:30万円、B口座:30万円、C口座:30万円のように差し押さえるべき金額を口座ごとに割り振って行います。このとき、預貯金残高がA口座:1万円、B口座:千円、C口座:100万円であったとすると、回収額は31万1千円となり、もしC口座のみ差押を行っていたとすれば90万円の回収が可能であったことを鑑みると、かなり偶然に左右されることになります。

<預貯金債権に対する債権執行図>

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