種類株式

会社法第108条第1項には、

株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。

と規定されております。

これにより、会社法第108条第1項に規定されている事項を組み合わせて、株式の種類ごとに様々な権利を付与し、または制限した種類株式を発行することが可能です。

例えば、配当を得ることを目的に出資はするが、会社の運営には特に参加するつもりはないという場合には、株主総会における議決権を制限する代わりに、通常の株式よりも配当が優先される株式を発行するということも可能です。

なお、異なる二種類以上の株式を発行する会社のことを「種類株式発行会社」と言います。

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以下、会社法 第108条に定められた事項について記載します。

なお、下記いずれも「普通株式」「A種株式」の2種類の株式を発行するものとし、「普通株式」の株主を「普通株主」、「A種株式」の株主を「A種株主」とします。

1.剰余金の配当

優先株式

剰余金の配当について、例えば、「A種株式の株主(以下、「A種株主」とする)は、普通株式の株主 (以下、「普通株主」とする) に優先して1株につき○○円の配当を受けるものとする」という定めをすれば、配当原資に対して、A種株主は普通株主に優先して配当を得ることができます。このような株式を優先株といいます。

また、このような優先株式には、配当について「累積型・非累積型」「参加型・非参加型」という定め方の分類があります。

累積型・非累積型

累積型とは、その事業年度において配当がされなかった場合や優先配当額に満たなかった場合に、当該事業年度分の配当を翌年度以降に持ち越すよう定めることです。

非累積型の場合には、その事業年度に配当がなされなかった場合や優先配当額に満たなかった場合であっても、翌事業年度以降には持ち越さず、翌年度は翌年度分の配当のみ受けることができることになります。

参加型・非参加型

参加型とは、その事業年度において優先配当を受けた上で、他の普通株主と共に普通株主としても配当を受けることができるよう定めることです。

非参加型の場合には、その事業年度において優先配当を受けると、それ以上の配当は受けられない型になります。

劣後株式・無配当株式

劣後株式は、優先株式とは逆に、「普通株主」よりも剰余金の配当において劣後する株式です。

無配当株式は、あらかじめ剰余金の配当を受けないことを定めた株式になります。

これらは、会社の資金調達のために新株を発行して増資を行う場合に、既発行済みの株式と同じ種類の新株を発行すると、既発行済株式の株主はその利益を害されてしまう可能性があるため、その利害調整のために利用することができます。

例えば、A(経営者)5株・B(配当目的の出資者)5株をそれぞれ保有する会社で、Aが出資して新株10株を引き受けるようとすると、A(15株)・B(5株)となります。この場合に配当原資が、10万円あるとして、新株発行前であれば、Bは5万円の配当を受けられたところ、新株発行後は、2万5千円しか配当を受けられなくなってしまいます。このようなBに配慮して、新株を無配当株式とすることでBの配当割合には影響がない形で増資を行うことが可能となります。

なお、無配当株式に、さらに残余財産の分配を受ける権利も排除する定めを置くことは会社法第105条第2項の規定により無効です。

2.残余財産の分配

残余財産とは、会社を解散し、清算手続により、会社の財産から会社の債務を返済して最終的に残った財産のことです。この残余財産を最後株主に分配して、財産も債務も空の状態にすることで清算手続を結了し、会社を正式に閉鎖することになります。

この残余財産の分配について、上記剰余金の配当と同様に、普通株主よりも優先もしくは劣後・無配当とする種類株式を発行することが可能です。

ただし、残余財産の分配を無配とする株式に、さらに剰余金の配当を無配当とする定めを置く事は会社法第2項の規定により無効です。

3.議決権制限株式

これは株主総会における議決権の行使を、全部または一部の事項について制限する株式のことです。

例えば、資金調達を図るにあたって「剰余金の配当を優先する代わりに、株主総会における議決権の行使を全て制限する」という設計をすることや、事業承継対策として、現経営者が全株式を保有し、同人に相続人が複数存在する場合を前提に、会社の全株式のうち、一部を議決権制限化し、議決権のある株式を後継者に引き継がれるよう手配しておくことなどが考えられます。

なお、公開会社においては、会社法第115条の規定により、議決権制限株式の数が発行済株式総数の2分の1を超えるに至ったときは、直ちに、議決権制限株式の数を発行済株式の総数の2分の1以下にするための必要な措置をとらなければならない、とされております。

4.譲渡制限株式

これは、株式を譲渡するにあたって、会社の承認を得ること必要とする株式のことです。

発行する株式の全部に譲渡制限が付いている会社を非公開会社、それ以外の会社は公開会社とされます。非公開会社の場合は、全ての株式に譲渡制限規定が付されているため、登記上、種類株式発行会社という形にはなりません。一方、例えば「A種株式」に譲渡制限を付し、「普通株式」には譲渡制限は無し、という場合には、種類株式発行会社となり、この会社は公開会社となります。

活用例としては、2020年2月現在税制や会社法の改正が進められている、上場企業において役員報酬として一定の条件や期限を付した譲渡制限付の自社株式を役員報酬として与える制度などが挙げられます。

5.取得請求権付株式

取得請求権付株式とは、当該株式を保有する株主が会社に対して、自身の保有する株式を取得するよう請求することができる株式のことです。

取得対価としては、現金以外にも、その会社が発行する他の種類株式や社債、新株予約権等と定めることが可能です。ただし、会社法第166条第1項により、対価として交付する会社の財産の帳簿価格が請求日における分配可能額を超えている場合には、会社は当該株式を取得することはできません。

6.取得条項付株式

取得条項付株式とは、一定の事由が発生したことを条件に、会社が当該株主からその株式を強制的に取得することができる条項を付した株式のことです。

取得対価としては、現金以外にも、その会社が発行する他の種類株式や社債、新株予約権等と定めることが可能です。ただし、会社法第170条第5項により、対価として交付する会社の財産の帳簿価格が請求日における分配可能額を超えている場合には、会社は当該株式を取得することはできません。

7.全部取得条項付種類株式

全部取得条項付株式とは、株主総会の特別決議によってその種類の株式全部を取得する旨の定めのある株式のことです。

取得条項付株式との違いとしては、取得条項付株式が取得事由の発生のより取得できることに対し、全部取得条項付種類株式は株主総会決議により取得できること、また取得条項付株式の取得が当該種類株式のうちの一部ですることも可能であるのに対し、 全部取得条項付種類株式は、その名のとおり当該種類株式の全部を取得対象としなければならない点が挙げられます。

活用方法としては、債務超過会社による100%減資を行うことなどがあげられます。

※100%減資

債務超過会社が、その再建を目的として、既存の株主から株式を買い取り、減資により資本金を欠損にてん補し、新たに出資者を募る方法です。

8.拒否権付種類株式

拒否権付種類株式とは、株主総会または取締役会・清算人会の決議事項のうち、各機関による決議のほか拒否権付種類株式の株主による種類株主総会の決議を必要と権限をもつ株式です。

例えば、株主総会で承認した役員選任決議を、種類株主総会で否決することも可能となり、その権限はかなり強固なものとなります。そのため、発行の際には取得条項も合わせて設定して、会社の運営に大きな支障を及ぼさないよう配慮する必要があります。

活用例としては、事業承継により後継者の方に株式を譲渡するにあたり、1株だけ拒否権付種類株式に転換して先代の方が保有し、原則として経営判断は後継者の方に任せつつ、先代の方のご意向も一定程度反映させられるようにするケースなどが挙げられます。

9.役員選解任権付種類株式

役員選解任権付種類株式とは、非公開会社においてこの株式の株主による種類株主総会で取締役・監査役を選任できる株式です。発行時に株主の内容として、「取締役全員」と定めることも「取締役〇名選任できる」と定めることも可能です。

活用例としては、数社で合弁会社を設立して事業を行う場合に、出資の割合等に応じて取締役の員数に対して選任できる取締役の人数を定める場合や、事業承継に際して、株式は後継者に引き継ぐものの、役員の人事権については先代が保有し、経営に対する影響力は継続するという場合などが挙げられます。

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