失踪宣告と不在者財産管理人
相続人の中に連絡がとれない人がいる…
相続が発生し、遺産分割を行う際に、その相続人の中に行方不明者(以下、「不在者」という。)がいる場合、その方を除外して遺産分割協議をしても、遺産分割協議は相続人全員で行わなければなりませんので無効となります。
こうような場合に取り得る手段としては、「失踪宣告」「不在者財産管理人選任申立」という手段があります。
失踪宣告
失踪宣告制度は、行方不明者・生死不明者について死亡したものとみなす制度です。
死亡したものとみなされた結果、不在者について相続が発生することになります。
そのため、遺産分割を行うにあたり、相続人の一人が失踪宣告を受けたときは、その不在者の代襲相続人等が遺産分割に参加する事になります。
▮ 失踪宣告の要件
<普通失踪>
不在者の生死が7年間明らかでないとき
・生死が明らかでない ⇒ 消息不明につき生存の証明も死亡の証明もできないこと
・7年間 ⇒ 生存が証明された最後の時から7年間
※失踪宣告があった日ではなく、生存が証明された最後の時から7年間を満了したときに死亡したとみなされます。
<特別失踪>
戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないとき
※それぞれ危難が去った時に死亡したものとみなされます。
▮ 申立人
利害関係人(民法第30条)
ここで、利害関係人とは、「失踪宣告により法律上の利害関係を有する者」であり、単なる債権者や不在者の友人等は該当せず、「配偶者」「父母」「相続人となる者」「不在者財産管理人」「受遺者」等が該当します。
▮ 申立時添付書類
- 不在者の戸籍謄本
- 不在者の戸籍附票(職権消除となっている場合を含む。)
- 申立人の利害関係を証する資料(親族関係であれば戸籍謄本)
- 失踪を証する資料
- 宛所に尋ね当たらないとの理由で返戻された不在者あての手紙
- 警察署長の発行する行方不明者届受理証明書
- 危難失踪の場合は危難に遭遇したことを示す資料(新聞記事や消防による捜索報告書) 等
▮ 失踪宣告後、不在者の生存が判明したとき
生存確認後、失踪宣告が取り消された場合であっても、既に行われた遺産分割は無効にはなりません。
ただし、失踪宣告があったことにより、遺産分割協議によって得た利益がある相続人は、現に利益を受けている限度において、その財産を返還しなければなりません。(民法32条2項但書)
現に利益を受けている限度とは、例えば、失踪宣告があったことにより、利益を得た分を生活費に充てた場合は、この生活費分は返還する必要があります。これに対して、遊興費等に使用した場合には、現に利益を受けているとは言えず、この分を返還する必要はありません。
不在者財産管理人
不在者(住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者)について、財産管理人がいない場合に、不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者が家庭裁判所に申立てを行うことにより、不在者財産管理人が選任されます。
不在者財産管理人が選任された場合、遺産分割協議は、家庭裁判所の許可のもと、不在者財産管理人を含めた相続人全員で行います。
ただし、不在者財産管理人の職務は、不在者が戻ってきたときのために、その不在者の財産全てを管理・保管することにあります。そのため、不在者の法定相続分が確保されない遺産分割は家庭裁判所の許可が下りませんのでご注意願います。
なお、相続財産が少額の場合には、帰来弁済型という分割方法により、もし、不在者が戻ってきたときには、他の共同相続人が代償金を支払うとする分割方法が認められることがあります。
不在者財産管理人選任の要件
- 不在者が自ら管理人を置いていないこと
- 不在者自身が財産を管理できないこと
- 管理すべき財産があること(マイナスの財産も含む)
- 法定代理人(親権者、成年後見人等)がいないこと
▮ 資格
不在者財産管理人にはなるために特に資格は必要ありませんが、申立時に推薦した候補者や弁護士等の専門家があたることが一般的です。ただし、遺産分割のために不在者財産管理人を選任する場合、当該遺産分割の当事者は利益相反に該当しますので選任されません。
▮ 申立人
利害関係人または検察官(民法第25条)
・遺産分割時、不在者と共に共同相続人である方は利害関係人に含まれます。
・その他、不在者の債権者の方等も利害関係人に含まれます。
▮ 添付書面
申立時には下記書類が必要です。下記以外にも事案に応じて別途添付書類が発生する場合があります。
- 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 不在者の戸籍附票
- 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
- 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、通帳写し・残高証明書等)
- 利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料(戸籍謄本、金銭消費貸借契約書写し等)
- 不在の事実を証する資料
- 宛所に尋ね当たらないとの理由で返戻された不在者あての手紙
- 警察署長の発行する行方不明者届受理証明書 等
▮ 予納金
その他、不在者の財産だけでは財産の管理費用や管理人の報酬等が足りない場合には、申立人が予納金納めなければならない場合があります。
▮ 権限外許可
不在者財産管理人が遺産分割協議を行うにあたっては家庭裁判所に別途権限外許可申立てを行う必要があります。
▮ 職務終了事由
遺産分割協議を行うために、不在者財産管理人選任申立てを行ったとしても、遺産分割協議が終了しても不在者財産管理人の職務が終了するとは限りません。終了事由は下記のとおりです。
- 不在者の生存確認
- 不在者の死亡確認(失踪宣告含む)
- 管理すべき財産の消滅
手続の比較
<失踪宣告>
費 用:予納金がない分不在者財産管理人選任よりも少なくて済む
要 件:不在時から7年間
手続期間:少なくとも1年程
懸念事項:取り消される可能性があること、死亡したとみなすことに心理的抵抗があること
<不在者財産管理人選任>
費 用:管理費用や管理人の報酬等が発生するため、失踪宣告よりも多い
要 件:ある程度長期間行方不明で当分も戻る見込みがないこと
手続期間:数か月
懸念事項:遺産分割協議が終わっても、不在者財産管理人の業務は継続すること
費用
<申立費用>
失踪宣告 | 不在者財産管理人選任 | |
印紙代 | 800円 | 800円 |
予納郵券(札幌家裁) | 3,000円ほど | 2,000円ほど |
官報公告費用 | 5,000円ほど | なし |
予納金 | なし | 裁判所の判断により数十万円~ |
<報酬>
失踪宣告申立書類作成:96,800円(税込)
不在者財産管理人選任申立書類作成:74,800円(税込)
お問い合わせ
弊所では、失踪宣告および不在者財産管理人選任の申立書類の作成業務を行っております。
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