募集株式の発行

募集株式の発行は、大きく「新株発行」と「自己株式の処分」の二つの手続きに分けられます。

新株発行

新株発行は文字通り、出資を募り、現在発行している株式に追加して新たな株式を発行することです。

そのため、新株発行による募集株式の発行を行った場合、「発行済株式総数」「資本金の額」の変更登記が必要です。

自己株式の処分

自己株式とは、自社保有の自社株式(金庫株)のことです。

自己株式の処分は、出資に対して自己株式を割り当てる手続です。

そのため、手続的には新株発行と同じ手続が必要となりますが、自己株式も以前は、株主が保有していたものを何らかの事情により自社で保有することになった株式ですので、当該株式を初めて発行した際に、既にその分の登記がなされております。

よって、出資に対して、すべて自己株式を割り当てて賄う場合には、「発行済株式総数」及び「資本金の額」の変更登記は不要です。

募集株式発行の手続

以下、特に指定がない場合は「非公開会社」「金銭出資のみ」として取り扱います。

募集株式の発行手続は大きく下記二つの方法に分類されます。

株主割当

株主割当は、既存の株主全員を対象に、持株比率に応じて募集株式を割り当てる権利を与える手続です。

ただし、割り当てを受けた株主には出資を引き受ける義務はありません。

手続は下記のとおりです。

(1)募集事項の決定

 募集株式の数

 募集株式の払込金額(1株あたりの金額もしくは現物出資財産の額)又はその算定方法

 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額

 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は③の財産の給付の期日又はその期間

 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

・ 申込を条件として募集株式の割当てを受ける権利を与える旨

・ 引受けの申込期日

なお、募集事項の決議機関は「非公開会社」「公開会社」の別、および「定款の規定」よって異なります。

<非公開会社>

株主総会特別決議

<非公開会社・定款規定あり>

取締役会決議

<公開会社>

取締役会決議

(2)通知

募集事項が決まると、会社は株主全員に対して、募集事項等下記事項を通知しなければなりません。

・商号

・募集事項

・金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所

・その他法務省令で定める事項

期限は申込期日の2週間前までです(株主全員の同意により短縮可)。

(3)引受けの申込

通知を受けて、各株主は、引受けの申込を行います。申込方法は書面または会社の承諾により電磁的方法によって行います。

 申込者の氏名又は名称及び住所

・ 引き受けようとする募集株式の数

(4)払込み

引受け申込者は払込期日または払込期間内に出資しなければなりません。

出資をしなかったときには、当該株式の株主となる権利を失います。

(5)登記(金銭出資のみの場合)

登記期間は、払込期日を設定した場合は払込期日から、払込期間を設定した場合は出資の履行日から(払込期間の末日でも可)2週間以内となります。

<必要書類>

□ 株主総会議事録(+株主リスト) または 取締役会議事録(+定款)

□ 引受け申込みを証する書面

□ 払込みがあったことを証する書面

□ 資本金額が会社法及び計算規則に従って計上されたことを証明する書面

□ 委任状(司法書士に依頼する場合)

第三者割当

第三者割当は、株主割当以外の募集株式の発行手続です。株主以外の方にも割当可能ですし、株主に割り当てる場合であっても持株ごとの割合にとらわれる必要もありません。

実務上は、株主割当よりも第三者割当を行うことのほうが多いものと存じます。

手続は下記のとおりです。

(1)募集事項の決定

 募集株式の数

 募集株式の払込金額(1株あたりの金額もしくは現物出資財産の額)又はその算定方法

 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額

 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は③の財産の給付の期日又はその期間

 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項

なお、募集事項の決議機関は「非公開会社」「公開会社」の別、および「有利発行か否か」によって異なります。

<非公開会社>

株主総会特別決議

<公開会社>

取締役会決議

<公開会社・有利発行>

株主総会特別決議

(2)株主に対する通知または公告(公開会社(有利発行の場合は除く)に限る)

募集事項が決まると、公開会社においては、有利発行の場合を除き募集事項の決定に株主が関与しないため、株主に対して、募集事項の通知をしなければなりません。これは株主割当の場合の通知とは性質が異なり、株式が発行されると、その分議決権等の株主としての権利が薄められてしまう既存の株主に対して、当該株式の発行を差し止める機会を与えるための手続です。

この手続は「払込期日」または「払込期間の初日」から2週間前までに行わなければなりません。この手続を欠いた場合、無効原因となります。

(3)引受けの申込

申込予定者は、会社から通知を受けて、引受けの申込を行います。申込方法は書面または会社の承諾により電磁的方法によって行います。

 申込者の氏名又は名称及び住所

・ 引き受けようとする募集株式の数

また、申込に代えて会社と引受人との間で「総数引受契約」を締結する方法もあります。この場合、「申込」及び「割当」の手続を省略することが可能です。

実務上、中小規模の会社が増資を行う場合、特定の引受予定者があらかじめ決まっていることが多いため、「総数引受契約」により、手続を簡略化することも多いです。

(4)割当て

申込を受けて会社は、どの申込者に何株割当を行うか決定します。会社側は必ずしも申込のとおりに株式を割り当てる必要はありません。

決議機関は、下記場合によってことなります。

公開会社・譲渡制限のない株式を発行:代表者による決定で可

公開会社・譲渡制限株式を発行:取締役会決議

非公開会社:株主総会特別決議(取締役会設置会社では取締役会決議)

なお、総数引受契約により、割当て決議を省略する場合であっても、総数引受契約について承認が必要です。この承認機関は、株主総会特別決議(取締役会設置会社では取締役会決議)となります。

総数引受契約承認のための取締役会においては、株式の割当を当該会社の取締役が受ける場合は特別利害関係取締役として同人に対する割当決議に参加することができませんので注意が必要です。

(5)払込み

引受け申込者は払込期日または払込期間内に出資しなければなりません。

出資をしなかったときには、当該株式の株主となる権利を失います。(会社法第208条第5項)

(6)登記(金銭出資のみの場合)

登記期間は、払込期日を設定した場合は払込期日から、払込期間を設定した場合は出資の履行日から(払込期間の末日でも可)2週間以内となります。

<必要書類>

□ 株主総会議事録(+株主リスト)

□ 取締役会議事録(必要に応じて)

□ 引受け申込みを証する書面 または 総数引受契約書

□ 払込みがあったことを証する書面

□ 資本金額が会社法及び計算規則に従って計上されたことを証明する書面

□ 委任状(司法書士に依頼する場合)

その他

有利発行とは

有利発行とは、払込金額について、株式の引受人にとって特に有利な金額である場合のことです。これに該当する場合、公開会社において取締役会では決議できず、株主総会の特別決議による必要があります。(会社法第199条第2項、第201条第1項、第309条第2項第5号)

これに違反して新株発行を行った取締役は、株主代表訴訟等により会社に対して責任を問われかねませんので注意が必要です。

1株あたりの払込金額の定め方

1株あたりの金額について、例えば「1株1万円で100株新株を発行する」と決めることができればわかりやすいのですが、場合によっては払込金額の総額は1000万円で発行する株式は370株としたい、とします。

そうすると、「1000万円÷370株=1株あたり27,027.027…円」となり割り切ることができません。このような場合であっても、もちろん募集株式の発行は可能です。議事録へは「募集株式の払込金額 金1000万円を370株で除した額」のように記載します。

現物出資

出資にあたって、金銭以外の財産(不動産、自動車、有価証券等)を出資することも可能です。

ただし、金銭のようにその財産の価値がいくらであるか、一概には言えません。

そのため、原則として、申立により裁判所が選任する検査役の調査を受ける必要があります。

しかしながら、常に検査役の調査が必要であるわけではなく、下記いずれかに該当する場合は検査役の調査を省略することが可能です。(会社法207条第9項)

 募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合

□ 現物出資財産の価額の総額が500万円を超えない場合 

□ 現物出資財産が市場価格のある有価証券である場合、その価額が当該有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場合

□ 現物出資財産の価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人の証明を受けた場合(不動産の場合は、さらに不動産鑑定士の鑑定評価も必要)

□ 現物出資財産が株式会社に対する弁済期到来済みの金銭債権の価額が当該金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合

活用例としては、増資は必要だが現金は用意がつかない場合であったり、相続対策として、不動産を所有している方が、当該不動産を現物出資して資産管理会社を設立したり、株主や代表者の会社に対する債権を現物出資して、回収不能な債権を相続させることを防ぎ、株式化することで財務の健全化を図ることなどが挙げられます。

登記費用

金銭出資 

払込金額 報酬(消費税込)
100万円以下 33,000円
100万~1000万円以下 上記 + 払込金額100万円ごとに2,200円加算
1000万円超 55,000円
登録免許税(別表1 24(1).二) 3万円 または 増資額×1000分の7
その他 実費

DES

DESとは、会社の債権者がその債権の全部または一部を出資して、債権を株式化すると共に、会社に対する出資分の債権を消滅させる手続です。

この手続により、新株を発行する場合には資本金が増加し、その分会社の債務は減少します。そして、これまで会社の債権者であった方は株主となります。なお、出資分全額に対して自己株式(金庫株)を割り当てる場合には資本金は増加致しません。

報酬額(消費税込) 55,000円
登録免許税(別表1 24(1).二) 3万円 または 増資額×1000分の7
その他 実費

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